(1)全発注事業者の義務
フリーランスに発注する全ての事業者に課される義務として、取引条件の明示義務(フリーランス法3条)があります。すなわち、発注事業者は、フリーランスに業務委託をした場合、直ちに、取引条件を書面又は電磁的方法により明示しなくてはなりません。電磁的方法とは、電子メール、チャットツール、SNSのメッセージ機能等をいいます。ただし、SNSのメッセージ機能は、送信者が受信者を特定して送付できるもの(Messenger等)に限られ、ネット上のブログ等への投稿は認められません。この通知は、「3条通知」と呼ばれることがあります。
取引条件の明示義務は、フリーランスに業務委託をする全発注事業者(業務委託事業者及び特定業務委託事業者)に課される義務であるため、フリーランスに業務委託するフリーランスにも適用されます。
3条通知に明示しなくてはならない事項は以下のとおりです。
●発注事業者・フリーランスの名称
●業務委託をした日
●給付の内容(品目、数量・回数、規格、仕様等)
●給付・役務の提供を受ける期日
●納入・提供場所
●報酬の額及び支払期日
●支払方法(現金以外で支払う場合)
●検査をする場合の検査完了日等
原則として、発注の際に上記の全てを明示しなくてはなりませんが、継続して取引があり、個々の発注に共通して適用される共通事項(支払方法、検査方法等)がある場合、共通事項とその有効期間を書面又は電磁的方法で明示しておき、3条通知にはその旨分かるように記載する(「報酬の支払方法、支払期日、検査完了期日は、現行の「支払方法等について」のとおりです」など」)ことも許容されています。
また、報酬の額の具体的金額を記載することが困難なやむを得ない事情がある場合、金額が一義的に決まる具体的算定方法を記載することも可能です。やむを得ない事情としては、原材料相場の変動が激しい、為替の影響が大きい、要する時間が不明である等の事情が考えられます。
さらに、ある記載事項の内容を定められないことにつき正当な理由がある場合、その内容が定められない理由及びその内容が決まる予定時期を委託時に明示すれば足ります。ただし、未定事項の確定後直ちに、その内容を記載した書面(補充書面)を交付する必要があります。補充書面には、当初の3条通知との関連性を明記する(「本書面は、●月●日付け発注書の記載事項を補充するものです」など)必要があります。
(2)特定業務委託事業者の義務
発注事業者のうち、特定業務委託事業者(役員が2名以上いる、又は、従業員を使用する事業者)にのみ課される義務として、期日における報酬支払義務(フリーランス法4条)があります。特定業務委託事業者は、物品等を受領した日(役務提供を受けた日)から起算して60日以内の、できるだけ短い期間内で支払期日を定め、その日までに報酬を支払わなくてはなりません。支払期日を定めなかった場合には、物品等を実際に受領した日(役務提供を実際に受けた日)が支払期日となるため注意が必要です。また、60日を超える支払期日を定めた場合、60日を経過する日が支払期日となります。ただし、「月末締め翌月末払い」のような納品締切制度を採用している場合、月によっては支払期日が60日を超えることがありますが、1か月=30日とみなされるため、適法です。
また、特定業務委託事業者が、その顧客(元委託者)から受託した業務を、更にフリーランスに再委託している場合、支払期日の例外規定が適用され、元委託者からの支払期日から起算して30日以内の、できるだけ短い期間内に支払日を設定し、その日までに報酬を支払うことができます。ただし、例外規定の適用を受けるためには、「再委託であること」、「元委託者の名称」、「元委託者からの支払期日」を3条通知に明示する必要があります。この例外規定は、資金が潤沢でない事業者が、元委託者から支払を受けてからフリーランスに支払うことを可能にするものです。そのため、原則である受領した日から60日以内の支払期日よりも、再委託による30日の支払期日の方が先に来る場合には、原則どおり60日以内の支払期日までに支払えば足ります。
(3)発注事業者の義務のまとめ
以上のとおり、フリーランスに発注するフリーランスにも、取引条件の明示義務が課されます。また、役員が2名以上いる又は従業員がいる事業者の場合には、取引条件の明示義務に加えて、60日以内の期日における報酬支払義務が課されます。さらに、特定業務委託事業者には禁止行為も定められているので、禁止行為に関するコラムもご参照ください。
(おわり)