フリーランス法の解説explanation

フリーランス法違反に当たる具体的事例(その1)

2025.3.21

1 はじめに

 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス法」といいます。)は、2024年11月に施行されました。2025年1月末現在、まだフリーランス法を適用して違反認定された事例はありません。
 そこで、本稿では、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)違反が認定された最近の事例のうち、フリーランス法を適用しても違反認定されたであろう事例をご紹介します。

2 カバー株式会社に対する勧告等事例
(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/oct/241025_cover.html)

(1)事案の概要
 資本金5000万円超のカバー株式会社(以下「カバー」といいます。)は、個人又は資本金5000万円以下の法人(以下「受託事業者」といいます。)に対し、インターネットを通じて配信する「V Tuber動画」等に用いるイラスト、動画用2Dモデル又は動画用3Dモデルの作成を委託しています。カバーは、受託事業者に対し、発注書等記載の仕様からは作業が必要であることが分からないやり直しを無償でさせていました。やり直しをさせた件数は、令和4年4月から令和5年12月までの間で、受託事業者23名に対し、合計243回に及びました。
 やり直しの中には、例えば、動画用2Dモデルの作成を発注して受注した後、検査期間を納入後7営業日以内としていたにもかかわらず、当該期間を経過した後にやり直しをさせたものや、カバーが当該受託事業者に「制作完了」との通知を行った後に、動画用2Dモデルを利用するV Tuberが修正を希望していることを理由としてやり直しをさせたものもありました。
 また、カバーから受託事業者に対する報酬の支払も遅延し、給付の受領日から266日~619日経過して支払われたものもありました。
 令和6年10月25日、公正取引委員会は、上記のカバーの行為が不当なやり直しの禁止(下請法4条2項4号)及び下請代金の支払遅延の禁止(同条1項2号)に該当し、下請法に違反すると認定し、やり直しに対しては勧告を、支払遅延に対しては指導を行いました。

(2)フリーランス法を適用した場合
 本事案の受託事業者には「個人」が含まれており、当該個人は従業員を使用していないと考えられ、フリーランス法の定める「特定受託事業者」(いわゆるフリーランス)に該当します。また、法人の中に、1名の代表者以外に他の役員がなく、従業員を使用しない法人が含まれていれば、当該法人もフリーランスに該当します。
 また、カバーが発注する取引は、イラスト、動画用2Dモデル又は動画用3Dモデルの作成委託であり、これらは情報成果物の作成委託に該当します。
 以上のことから、カバーとフリーランス(個人及び1名の代表者のみで従業員のいない法人)との間の取引は、フリーランス法の適用対象です。
 次に、カバーが行った不当なやり直しは、フリーランス法上も禁止行為であり、支払遅延も、フリーランス法の定める支払期日における支払義務に違反する行為です。
 したがって、本事案のうち、フリーランスとの間の取引については、フリーランス法違反にも当たります。
 もっとも、本事案に対して公正取引委員会が勧告及び指導を行ったのはフリーランス法の施行直前である令和6年10月25日であったため、フリーランス法は適用できない時期でした。

(その2)に続く